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袋帯『duet』の完成と発見

亀のようなスピードで進めてしまった袋帯『duet』の前帯部分の刺繍が無事終わり、やっと帯は完成となりました。

こちらが前帯部分の画像です。

深い紅色の帯締めなど締めたらかっこいいなと思います。

ふわふわとした羽根の質感を出すのにとても苦労しました。

というか、それがこの作品を遅らせた原因です。

お太鼓の羽根を刺す時は羽毛部分のふわふわを表現するのに釜糸(よりをかけていない糸)を使用していました。優しく美しく、効果的だったと思います。

お太鼓の図案は孔雀の全体図のため、羽根は小さく表現されています。

しかし前帯は羽根のクローズアップですからその質感はさらに緻密さが求められます。

『釜糸』は拠っていませんから上品で美しい光沢を持ち、糸そのものはふんわりしています。

お太鼓にも使ったし、前帯も同じようにしたらいいんじゃない、と最初は釜糸で羽根の羽毛を刺してみました。が、なんだか仕上がりはばさばさとまるでススキのようになってしまいました。糸が一本調子で面白くないのです。

私が使用した釜糸は5本どり。どうやらそれでは太すぎて、ただまっすぐで表情が出ないようです。でも、これを二本どり、一本どりにしたところでまるで蜘蛛の糸を乗せているようで弱すぎます。軽やかでふわふわ、なおかつ生き生きとした生命力を感じられるものにしたい.........。

そうだ、同じくらいの太さの撚り糸ならどうかしら?

撚ってあるので、糸そのものに光のあたり具合で陰影が出て表情が生まれるかも!

今まで私の勝手なイメージですが、撚り糸は少し硬い顔を持つ、と考えていました。釜糸で刺した方が優しい雰囲気になる、と。古来から撚り糸がよく使用されるのはその方が耐久性に優れているからだ、と。

でも、他の方の刺繍をみると、撚り糸作品でも素晴らしいし......と今まで釜糸で刺した部分を全て外して撚り糸で刺し直してみました。

すると、予想通り羽毛のふわふわ感がでて、よしこれだ!と刺し進めました。私にとって大きな発見になりました。思い込みは表現の幅を狭くしますね〜。

ただ残念なことに、画像ではそんな苦労もわかりにくいかもしれません。

作品を完成するたびに何かしら発見があり、心は芭蕉の歌のように自由に草原を駆け巡っている感じです。

この言い方は少しわかりにくいですね。私の心の中にはいつも風によってその形を変える青々とした草原を置いています。ゆったりと、生き生きと全てのものに命を宿らせているかのような表現をしていきたいと願っています。

そしていつまでも刺繍する喜びを感じていたいです。

日本刺繍作家:石原 英(Hanabusa Ishihara)

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