どんどん人間になってゆく
5月、6月はイベント続きで思うように時間が取れず、なかなか刺繍が進みませんでした。
それでもなんとか首から上を刺すことができました。
こんな感じです。華やかな兜を被せたらぱあっと表情がイキイキしてきました。
そして、実は少しだけオートクチュール刺繍のテクニックも使っています。
わかりやすいのは兜の鋲のスパンコールですね。この後の鎧部分の金具、鋲にも少しメタリックな素材を使おうと思っています。今回は刺繍絵画ですからハードな素材も大丈夫でしょう。
そして、わかりにくい部分にクロッシェ針を使ったチェーンステッチを使っています。かなり小さいチェーンなのでただのラインに見えます。
ところで前から気になっていたことがあります。
日本刺繍には鎖縫いという手法があります。けれど、それを使ったことはありませんし、テキストにも載っていません。使用した作品も見たことがありません。
なぜかなあと思っていました。世界中のいろいろな刺繍で、チェーンステッチとクロスステッチは必ず見かけるテクニックです。
この6月、京都の長艸敏明先生の貴了庵にお邪魔する機会がありましたので、そのことをお聞きしてみました。お答えくださったのは奥様の純恵先生です。
鎖縫いはみんな手法としては知っているけれど、効果的でなければ使わない、美しくなければ使う意味がないから、というのがお答えでした。
なるほどね、と思いました。確かに表現としてどうしても使わなければ、というシーンはなかなかありません。他の手法でずっとずっと美しい表現ができるのですから。このことからも日本刺繍の特異性をおもんばかることができます。
そして、日本刺繍といえば絹糸、絹糸の不思議を今更ながらひしひしと感じました。
こんなふうに角度が変われば色が変わります。そして、表情までも!おまけに意図していない陰影まで生まれます。
そして、最近『時代布池田』の池田由紀子先生にもお目にかかる機会がありました。
その時、『日本のもの(工芸品)はね、他の国よりずっとずっとじゃなくて、もう断トツトップですごい差をつけて一番素晴らしいのよ!』とおっしゃっていらっしゃいました。
私も全く同感です。
同じ絹糸刺繍でも、他国のものでこんなに洗練された繊細な美しさをまだ感じたことはありません。
私も日本刺繍をするものの端くれ、深く心して頑張ります\\\\٩( 'ω' )و ////
さあ、7月はなんとか上半身を刺しあげたいです。どんどん人間になってゆきますね!
日本刺繍作家:石原 英(Hanabusa Ishihara)